◇新入生のための少人数教育「基礎ゼミ」について | ||
全学教育改革検討委員会 「基礎ゼミ」プロジェクトチーム座長 東北大学遺伝生態研究センター長 大瀧 保 | ||
1.はじめに: 長い受験勉強の後に、大きな期待と学問への情熱をもって入学した新入生の夢を実現させるためには、どのようなカリキュラムが理想的であるか、東北大学では長い間、大学教育研究センターや、評議会の下に設置されたいろいろな委員会で鋭意検討が行われてきました。その結果、少人数の学生を対象とした「基礎ゼミ」が最も効果的なカリキュラムの一つとして確認され、これまで東北大学でも散発的に行われてきた少人数教育カリキュラムを全面的に見直し、このたび新たな装いで出発することになりました。そして、まだ試行的な面は残りますが、さっそく平成13年度からその一部を実施する運びとなりました。「基礎ゼミ」は東北大学の全学部、全研究所等が全力をあげて参加する全学的な教育ですので、新入生にとっては必ずや満足できるものと期待しております。多くの新入生の受講を切に希望しながら、以下にその概要を紹介したいと思います。 2.「基礎ゼミ」の目指すもの: 「基礎ゼミ」とは、文系・理系の学生を問わず、20人以下の比較的少人数の新入生を対象にして行われる全学教育で、教官と学生および学生同士が密接な人間関係を築きながら、学生が受け身ではなく主体性をもって参加する「Face to Face」の教育です。この「基礎ゼミ」では、次のような目標の達成を目指しています。 1)新入生の期待と意気込みに応え、さらに学問研究への意欲を高める。そしてなによりも重要なことは、大学を卒業した後も現代社会で知的市民として活躍できる教養・技法・倫理を身につけた人材を育成することです。 3.「基礎ゼミ」とは: 「基礎ゼミ」では、各学部や研究所等から企画・提案された課題に対し、教官や学生が一緒になっていろいろと異なった面から追求出来るように計画されています。すなわち、学部や研究所等の専門教育にあまり偏重することなく、しかも東北大学で行われている先端的な学問研究にも触れることのできるような課題を設定し、さらに複数の教官が担当することによって、その一つの課題を多方面から検討できるようになっています。高校のカリキュラムでは、国文学や物理学などというように、どちらかといえば縦割りにした学問を学習してきましたが、これからはこれらの学問知識を縦横無尽に活用できる能力が重要となります。例えば「水」という課題を考えてみますと、そこでは火星の水、化合物の結晶水、血液など生物体内の水、文学的表現上の水、水利権などの法律学的な水など、いろいろな面からの水の姿があり、これらを総合的に把握してはじめて「水」の実体を浮き彫りにすることができます。このように物事を多面的に解析する能力を養うことによって、新入生が将来より深い専門の研究教育に進んだ時に、一歩余裕を持ってもう一度、より広い見地から自分の研究教育を振り返ってみることのできる能力を獲得できるものと信じています。これは将来、自分の行っている研究がどのような学門的・社会的立場にあるか、場合によってはネガティブな面からも省みることのできる能力で、科学者にとっては実に重要で必要な能力です。 この「基礎ゼミ」は2単位で、各学部とも現在のところ選択科目として取り扱っておりますが、将来はその重要性に鑑みて課題数をこの3倍以上に増やし、必修科目にできればと思っております。繰り返しになりますが、専門の異なる複数の担当教官の指導の下に、文系・理系の混じった学生が一つの課題に対して共に探求していくことは、最も理想的な教育形態の一つであり、その中で学生は実際に手を染めることのできるフィールドワーク、見学、実験、実習、インターネット情報の収集などを体験できるものと期待しております。 4.「基礎ゼミ」を受講するには: 平成13年度の「基礎ゼミ」では、48の課題が企画されていますが、新入生はその中から興味のある課題を第1希望から第5希望までを選択し、申込書に記入の上所定の期日までに提出することになります。一つの課題に対し多くの学生が集中する場合もあり得ますが、その場合でも機械的な抽選による選別ではなく、申込書に記載された選択理由などを参考にしなから、できるだけ学生の希望に応えたクラス分けを行いたいと思っております。しかしもっと重要なことは、どんな課題を選択することになったとしても、その課題にチャレンジしていく情熱であり、未知の課題に飛び込んでいくことによって、また新たな展開が必ず起こるものです。 授業の形態は、少人数で行われる教育である特性を活かし、セミナー室などの比較的小さな教室での個人指導的な学習から、場合によっては教官の所属する研究室や施設の訪門、あるいは東北大学の施設を使っての実習や見学、時には一定期間合宿の形式で行う学習も可能であると思われます。どのような形態の「基礎ゼミ」にするかは、担当の教官と受講する学生とで工夫しながら構築して行くことができれば、「基礎ゼミ」の趣旨からもすばらしいことであると思っています。 5.おわりに: 以上、「基礎ゼミ」に関して、期待と夢を強調しながら紹介しましたが、これらの期待と夢とが実現できるかどうかは、参加学生の主体性と情熱、そして工夫と叡知に依存していることは言うまでもありません。戦後、大学では教養教育が重視されてきましたが、その後教養教育の見直しが起こり、そして最近は種々の社会問題が頻発する中で大学における教養教育の重要性が再び叫ばれるようになりました。「基礎ゼミ」はその意味でも、有意義なものと信じています。それはともかく、希望をもって入学した新人生諸君が、是非この「基礎ゼミ」を通して東北大学の学問研究のすばらしさを体験しながら、来るべき将来に備えていただければと思っています。 |
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