◇You've got mail? 〜海外メル友の勧め〜 | ||
国際文化研究科教授(全学教育科目英語担当) 溝越 彰 | ||
●バリストの朝 20世紀最後の年の11月、「バリスト」の日の朝のこと、教材をかかえてA棟横で右往左往していたら、農学部2年のA子さんが駆け寄ってきた。「先生、まだ続いているんですよ、メール。」 実は、パソコン教室を使って海外とメールをやりとりするという英語の授業をしている。彼女は前期の受講生で、メル友はカナダに住む視覚に障害を持つ女性。「ボランティア活動のことなんかも教えてもらったり、自分の世界がすごく広がった感じです。」こりゃぁ、そこでバリスト張ってる諸君よ、狭苦しい校舎に立てこもってるより、メ―ルでも使って世界の同志と連帯せんかい。 ●文章なんてかったるい? 学生のレポートが文章の体を成していないという教師の嘆きを耳にすることが多い。実験レポートを添削して返したり、専門の授業時間を割いて「綴り方」の指導をしている熱心な先生方もいる。文章力の低下は、一説によると、ラブレターを書かないからだという。ちなみに筆者の場合は、徹夜で広辞苑と首っ引きで………イヤ、それはともかく、今はだれかを説得するために必死で文章を錬るなどという時代ではなくなったのだ。ケータイで「えー、まじ〜?ほんとまじ〜?」で済む世代に「てにをは」もへったくれもない。レポートだって、専門用語並べてイラスト書いて矢印で結んでいっちょ上がり――ゲーッ、不可?まじ〜!? ●メル友に国境はない ハガキの1枚も書かないかもしれない世代。が、「文通」ならわれわれの学生時代よりずっと盛んではないか。そう、Eメール。友達となら毎日のようにやりとりしているだろう。くせ字を気にすることもなく、軽いノリでタイプすればすむ。そこで提案。どうせなら、ちょっと海外サイトをクリックしてみませんか。え?英語が苦手?だいじょうぶ、世界中の人が英語でやりとりしているのです。i like listen musikなどというエーゴが平然とまかり通っている。「英語」がもはや英米の言語でないことを実感して気が楽になる。それに、相手のメールに気のきいた文章とかクールなスラングがあったら遠慮なくいただいて、今度はそれを使って送り返せばいいのだ。Take care!ときたら、こちらもTake care!――深まる友情、広がる知識。 え?何を書いたらいいか分からない?それもだいじょうぶ。いきなり国際情勢を語ることはない。nintendo持ってるかとか、バイトがきついとか、「ヒンショクカレー」は盛りがいいとか、なんでもよろしい、心を打ったことを書けばいい。それから、相手がいろいろと尋ねてくるはずなので、それに答える。文通術その1:相手にも質問をしてやる。テニスやピンポンのラリーとおんなじ。 「英語はできないし、なんて書けばいいのか分からない」とうつむいていたK子さんの期末レポートにこう書いてあった。「自作のイラストを載せているホームページに書き込まれる海外からの感想に初めて返事を出してみて、インターネットで作品を公開するほんとうの意義に気づきました。」A子さんもK子さんもありがとう。これぞ教師冥利につきるというもの。 ●君はニッポンを語れるか クラスの学生たちのメル友は、まさに全世界にちらばる。珍しいところでは、ネパール、トリニダード・トバゴ、モロッコなど。中でも、シンガポールとかタイとか東南アジアの若者たちの「日本通」ぶりに驚かされる。J-dorama、kyocera's ketai、TK(Tetsuya Komuro)、CREYON SHINCHAN――どれも学生たちに届いたメールの中のニッポン。肥大し、どこかゆがんだイメージを前にすると、誇らしさととまどいと歴史に根ざすうしろめたさが交錯する。君たちは、等身大の日本の姿を理解してもらうメッセンジャーでもあるのだ。 文通術その2:日本に関心を持っている相手を見つける。日本語勉強中なんてのは食いついて離してくれない。ただし、「武士道」を追求している相手だったり、「宗教ハナイト言ッタノニ受験デ神社へ行ッタノハ何故力」などと詰問されたりするとひと苦労。「いろいろ質問されて日本について無知な自分を思い知らされた」とはT君の感想文。そう、その自覚こそ待っていたものです。辞書や百科事典をとっかえひっかえ、テキが納得するまでメールを書き送る。やがて、英語力はもちろん、A評価のレポートを書く日本語力だって身に付く。 学生諸君に届いたメールを見せてもらう。百通百様。笑ったり、感心したり、不覚にも涙するときもある。この星のさまざまな場所で暮らす人々の確かな息づかい。少なくともEメールに関する限り、君たちはいい時代に学生をやってるなぁ。 ●辞書と頭は飾りじゃない もちろん、幸運なケースばかりではない。ウイルスにやられたY君、相手の正体がハッカーだったS君、スウェーデンの中年男性から「アジア人女性と結婚したい」と熱烈なメールが舞い込んだMさん、短かすぎるメールを誤解されて韓国人女子高生の「日本人不信」を増幅させてしまったK君。一番多いのは、2、3回で相手からのメールがプッツリ途絶えるケース。文通術その3:相手の「顔」をイメージしながら「親身なメール」を書く。早い話、相手が男か女かも分からないで、どんな話ができますか。これはレポートだって結婚式のスピーチだってダイレクトメールだっておんなじ。ターゲットを絞り込むほど、メッセージはシャープになるし、相手は逃げにくくなる。ほら、授業だって、教師に「顔」が割れていればサボリにくいでしょ。 文通術その4:文章にちょいと「薬味」を工夫する。つまり、ユーモアやウィット、そして感想や関連ネタでの「突っ込み」。飽きられないための味付けというだけでなく、頭や辞書を使う「背伸び」だから、文章力だって伸びる。K君のようなトラブルは、むしろ説得力を鍛えるチャンス。誤解を解くための文章をなんとしてもひねりだすべし。がんばれ、英語の単位はもちろん、日韓合同開催ワールドカップの成否もかかっているぞ。 ●メル友は鬼教師 英語教師として、こういう授業を始めたねらいは、もちろん英語カアップのためだ。成果の上がらない日本の英語教育、自他共に認める英語べたの日本人。本学とて例外でないどころか、某企業の内定者の集いで東北大生ですと名乗ったら、担当者から、あ、君、春休みに英会話を習ってきてね、といわれたという話を聞いたことがある。「旧制七大学」の中で最悪とさえいわれる外国語教育体制。あえて聞きますが、入試の時よりも英語力は向上しましたか?第二外国語は希望通りに受講できていますか?「バリスト」のタテ看に「外国語教育沈滞打破」のようなゲキ文が踊っていないことが不思議なぐらいだ。しかも、「大学院重点化」の追い打ち。教師の身は一つ、二足のワラジははきにくい。不器用な私は不安でならない。学部教育は、とりわけ外国語教育は、いったいどうなる? 外国語習得とは、いわば、もうひとつの自己発現回路を組み込む脳ミソ改造。「アイデンティティ」のできあがった年齢では、ひたすら根気のいる難工事なのだ。乏しい授業時間を補って、英語漬けの毎日にしておくにはどうすればよいか。考えた末の秘策の一つがこれ。「毎日、実験レポートとメ―ル書きで寝不足で……。」と目をショボつかせていた工学部のT君。春休みだって夏休みだってメールに「休講」はない。これぞ教師の思うツボ。T君の筆まめなメル友よ、ありがとう。 ■お勧めサイト(2001年8月7日現在) http://www.alc.co.jp/keypal/ 英語の総合情報ホームベージSpace Alcのぺンパルサイト。 登録が必要。日本に関心のある相手探しなら: http://www.japan-guide.com/penfriend/ 世界のメル友サイトのリンク集なら: http://amifriend.com/penpal/en/links1.htm 適当な相手が見つからない場合や返事がこない場合は、自分のinfoを掲載してメールを待つ。登録手続きやinfoの書式はサイトごとに異なるので、指示に従ってタイプイン。 http://amifriend.com/penpal/en/ メル友探しとよいメールを書くためのこつ(tips)や、アドバイス、マナー集。トラブル対策に必須。 http://www.alc.co.jp/email/ 事例ごとの模範メール満載。利用しない手はない。(←サービスが終了しています 2003/6ページ作成時) 用心のために自分のアドレスは使いたくないなら、 http://community.goo.ne.jp/、http://www.mcn.ne.jp/、http://www.freemail.ne.jp/ などの「フリーメールサイト」に専用のアドレスを登録する。 使えるサイトは他にもわんさとあります。よいサイトとよいペンパルを見つけて下さい。Good Luck! |
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