◇全学教育と情報リテラシー | ||
副総長(研究担当)小田忠雄 | ||
平成14年4月から全学教育の新しいカリキュラムが完全実施されています。 平成11年2月から平成13年3月まで行われた全学教育改革検討委員会における検討以来ここに至るまでに大変なご尽力を頂いた関係者各位に敬意を表します。この全学教育は教養部や教養学部等の専門組織によらない全学的体制の下で行う「教養教育」であり、本学独自の数々の工夫がこらされています。その一つである「基幹科目類」では、人間論群、表現論群、学問論群のそれぞれから1科目を選んで履修することが文系・理系を問わず必修になっています。学問論群の中の「現代学問論」という科目では、定年を控えた教官3名が一組になって、自分の行ってきた研究を題材にして学問を論じ、最前線の研究者にとって学問がどのようなものであるかを学生諸君に学んで貰うことになっています。筆者も、有機化学と政治学を専門とされる先生方と組んで、数学に関する講義を平成14年4月から5回行いました。これまでせいぜい50名程度の学生諸君を対象にした数学講義の経験しかありませんでしたので、A200の大教室で約220名の諸君を相手に講義するというのは全く新しい経験でしたが、講義直後の短い時間に沢山の質問を受けたり、かなり意欲的なレポートもあって楽しい思いをしました。数学では知識の積み上げがないと本格的な内容に入れませんので、話題の選択には苦労しましたが、正多角形の作図という目に見えるテーマを題材に、数学の研究成果の形には3種類あることを紹介しました。 即ち、@解を具体的に求められる場合、A解があることは示せるが具体的にそれを求めることはそれほど簡単ではない場合、Bどんなに頑張っても解が見つけられないことを理論的に証明できる場合、の3種類ですが、例えばAは情報セキュリティーに縁の深い「暗号」にも関わってきます。定規とコンパスを規則に従って利用し正5角形を作図できて感激したとの感想を書いたレポートや、正17角形を見事に作図したレポートもかなりあり、講義のし甲斐がありました。 さて、表題の「情報リテラシー」は情報活用能力を意味しますが、全学教育の「共通科目類」の中に、外国語科目と並んで「情報科目」を設け、全員必修の形で学生諸君の情報活用能力を涵養しようというのも新カリキュラムの特徴の一つです。 大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(平成10年10月)は、「学生の課題探求能力の育成」を大学改革の基本理念の一つとして謳っていますが、情報洪水の中で、課題探求に必要な情報を的確に見出し、また、自ら的確に情報を発信するためには、早い段階で情報リテラシーを身に着けることが不可欠です。 情報技術に関する既修者や腕に覚えのある学生諸君対象の「情報基礎B」もあるようですが、大部分の学生諸君が履修する「情報基礎A」は、「情報技術が広く多様に織り込まれた現代社会において、将来に渡ってそれらと良好に付き合うための基礎体力を養う」ことを目的としています。原理的事項を土台に、情報処理・情報活用・情報倫理を3本の柱としてUNIXシステムを利用した実習本位の授業により、大学生として文系・理系を問わず身に付けておくべき基礎的な知識と技能を獲得することになっています。 情報シナジーセンターの静谷啓樹教授によりますと、情報基礎に関する全学共通の講義ノートをウェブで公開しているので、自発的にどんどん進んで勉強し、かなり先の教材に関する質問をする学生諸君もいる由です。全学必修科目の講義ノートをウェブで公開しているのは本学では初めてではないでしょうか。 また、情報基礎Aの内容の理解が十分ではないと自覚した学生諸君のための情報基礎A復習コースを、情報シナジーセンターの利用者講習会として開催して頂いている等至れり尽くせりです。 ところで、情報基礎を受講する際に不可欠なのは情報シナジーセンターのアカウントですが、平成10年度以来、新入生諸君全員に2年次まで支給されています。「情報基礎」受講時以外にも、このアカウントを通じて世界中の情報にアクセスできます。授業時間以外に情報シナジーセンター実習室でアクセスできますが、総長裁量経費によって附属図書館本館ロビーに設置して頂いた40台の大学教育研究センターの情報教育用X端末は、夜間・土曜日等も含めた開館時間中に自由に利用できるためかなりの利用率(全ログイン数の約30%)の由です。 その他に、今年度から川内北キャンパスでの情報コンセントや無線LANを通じたアクセスも可能になったようです。アカウントのユーザー名とパスワードで認証するというシステムによリセキュリティーにも十分配慮されており安心です。本学の誇る超高速ネットワークシステムTAINS/Gを情報教育にも十分生かす体制が整っているわけです。 情報の宝庫である附属図書館も情報リテラシー教育支援で重要な役割を果しています。入学式直後の学務部主催オリエンテーションで、図書館長として新入生諸君に図書館及び情報環境を紹介していますが、附属図書館本館では、約1時間の新入生オリエンテーションを入学式後の5日間に毎日3回実施し、また、学部・研究科と協力して授業の一環としての利用教育、情報検索技術講習会等も行っています。 ところで、「情報シナジーセンター」は、旧大型計算機センター、旧情報処理教育センター、旧総合情報システム運用センター、附属図書館(一部)を統合して平成13年度に設置されました。「協働」や、「相乗」を意味する「シナジー(synergy)」の言葉通り、附属図書館の電子図書館機能・情報リテラシー教育支援機能、総合学術博物館の電子博物館機能、史料館の電子公文書館機能、事務局の電子的情報公開機能、を統合して相乗効果を発揮する「情報シナジー機構」の中核的組織が情報シナジーセンターであり、全学教育のみならず、本学の全ての場面で今後ますます重要な役割を演じるものと期待しています。 |
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