◇新入生の諸君へ | ||
東北大学総長 吉本 高志 | ||
東北大学入学を心からお祝いいたします。そして、長い厳しい受験生活を経て無事合格されましたことに心から敬意を表します。 諸君は、明確な目的意識を持って、それぞれの学部を選択したわけですが、どうぞ初心を忘れず、さらに、大学生活の中で、益々志を高く持ち、その道に精進してください。 東北大学は1907年、明治40年に、東京大学、京都大学についで第三番目の帝国大学として創立され現在に至っております。そして、諸君の多くが学部を卒業する4年後の2007年に、ちょうど100周年を迎えます。既に、東北大学100周年記念事業委員会では、東北大学基金、100周年記念建造物、東北大学百年史、記念行事などが企画されています。100年を共に盛大にお祝いしましょう。そして次の100年に向けてさらなる新しい歴史を造るべく、スタートを切っていただきたいと思います。 東北大学は、開学以来の理念として、「研究第一主義」、「門戸開放」を掲げ長い歴史と伝統を築いてまいりました。平成13年11月、これらを「理念」、「精神」としつつ、現代の文脈で具体的に表現することによって種々の事々に対応することを目的に、東北大学の使命―研究中心大学、東北大学の方針―世界と地域に開かれた大学、東北大学の教育目標―指導的人材の養成の三部に分けて展開することを明らかにしました。 新人生の諸君は、本学の教育目標は社会の指導的・中核的人材の養成であることを銘記し、はっきりと自覚して下さい。学部教育では、第一線で研究に従事する教授、助教授、講師が中心となり、基礎的な専門知識と語学・情報の活用力を備え国際社会で活躍できる人材を養成します。合わせて、豊かな教養と人間性を追及し、「科学する心」を持つ行動力ある人材を育てます。どうぞ、決意を新たにし、長い歴史と伝統を受け継ぎ、未来に向かって羽ばたいて下さい。 さて、昨年は、本学にとり大変記念すべき年でした。昭和58年東北大学工学部電気工学科卒業の田中耕一氏が、2002年ノーベル化学賞を受賞されました。杜の都、学都仙台で、諸君と同じキャンパスで勉学に励んだ弱冠43歳の若き科学者です。田中氏は、ノーベル賞の授賞式を直前にして久しぶりに東北大学を表敬訪問しました。青葉山の工学部構内は学生諸君、若い研究者で一杯になるほどの大混雑でした。東北大学評議会は、田中氏に「その偉業によって学生の勉学心が向上し、更に若手研究者の研究心の喚起につながった」とし、直ちに、遠山文部科学大臣のご出席のもとに、東北大学名誉博士号を授与いたしました。ちなみに、この名誉博士号は、田中氏も入れて開学以来3名のみで、2名は外国人研究者です。 彼の受賞対象となった業績は「生体高分子の質量分析法のためのソフト脱離イオン化法の開発」です。この研究は、従来は分子量が大きいために極めて困難であったタンパク質のような生体高分子の質量分析を、正確かつ簡便に行える道を開きました。 田中氏は、名誉博士の授与式後の挨拶で「卒業後の進路は大学で学んだ研究とは異なった方向となったが、東北大学での実学を重んじる学風が、その後の研究生活に大変役に立った」と述べておりました。なお、昨年12月の評議会で、田中氏の東北大学客員教授就任が決定しました。工学研究科共通の講座「先端ライフサイエンス」を受け持ちます。どうぞ、ノーベル賞受賞者の講義を楽しみにして下さい。多くの学生諸君が聴講できるようにします。 さて、田中氏は、ストックホルムの様子などマスコミでも大変多く取り上げられました。いわゆる高名な学者タイプとは異なり一般の人々に親しみやすい印象を与えました。そして若さもあります。彼自身の言葉ですが、大学では実は1年留年して5年かかったそうです。ドイツ語が苦手で、大学院に進学せず、学部卒業後直ちに島津製作所に入社したのもそのためだそうです。ドイツ語の教授には怒られそうですが、人生とは実に不思議なものです。 私は本学医学部出身です。ノーベル賞受賞者と無論比較するつもりは全くありませんが、私も1年留年し6年が7年になりました。希望に満ち溢れる諸君には無意味なこととは思いますが、学生生活の中では、いろいろなことがおきます。大切なことは、多くの人々と十分相談し、考え、そして最後は自分自身で決定することだと思います。 私は、医学部という他の学部とは少し異なる所に所属しておりましたので、学部学生の教育についても多少異なるかもしれません。4年生の講堂での講義と5年生、6年生の臨床修練という4、5名からなる少人数の教育を担当しておりました。後者の場合は大学病院での患者さんを前にした教育です。特に大学病院には、さまざまな状態の人々が入院生活を送っています。年齢も新生児から老人までおられます。そして、みんな病気と必死で向かい合いがんばっています。学生に第一に教えることは、患者さんに対しての細心の注意です。言動は無論ですが、服装、頭髪、化粧、履物などです。次に話すことは、一人前の医師になる前に、死に物狂いで勉強しなければならない、決して逃げてはならないということてす。学生には、進学試験や卒業試験や医師国家試験があります。東北大学の学生にとって、これらの関門をクリアーすることはさほど困難ではありません。しかし、若い時代には、是非自分に納得のいく挑戦が必要です。私たちはその道の指導者を目指す教育を行う義務があると強く思っています。 念願の大学生活がはじまります。杜の都、学都仙台で学生時代を謳歌していただきたいと思います。 皆様の前途に幸多いことを心から祈念いたします。 |
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