◇「外国語教育」の現状と課題 | ||
全学教育審議会外国語委員会委員長 野家 啓一 | ||
東北大学ではこの数年の間に「全学教育」のあり方が抜本的に見直され、外国語教育も従来のように特定の部局が責任を負う形ではなく、全学的な協力のもとに外国語委員会が責任をもって運営する方式に切り替わりました。したがって、外国語委員会は全学を代表する審議会委員と語学教育を担当する専門委員との両者から構成されています。これは他大学には見られない本学独自の運営方式であり、全学的観点から外国語教育を推進するという利点をもちますが、他方で現場の先生方の声が直接に反映されにくいといった問題も残されています。以下では、この3年間委員長を務めた経験をもとに、本学の外国語教育の現状と課題について述べさせていただきます。 国際化と情報化が進行する現代社会において、外国語教育の果たす役割の重要性は今さら強調するまでもありません。しかし、単なる会話力の向上だけなら、民間の語学学校でも十分に用が足ります。大学の外国語教育に求められているのは、何よりも国際的な舞台で活躍しうるコミュニケーション能力を身に付けた人材を育成することです。そのためには、外国語の文献を読みこなし、各種メディアを通じて情報を受信する能力とともに、異なる文化圏に属する人々と交わり、自分の意見を明確に表明できる発信能力を高めることが不可欠です。本学の外国語教育では、「読む、書く、聞く、話す」という4つの技能のバランスのとれた教育を通じて、その目標を実現することを目指しています。 しかし、目標の実現には、さまざまな障害が横たわっています。まず知っておいていただきたいのは、本学の外国語教育を担当する専任教員の数(55名)は、他の国立6大学と比べて著しく少ないという事実です。そのため、専任教員の方には通常よりも多い6コマの担当をお願いしていますが、それでも開講クラス数にはおのずと限度があります。さらに、全学的な方針で非常勤講師の数は縮減の方向へ向かっています。他にもさまざまな理由はありますが、結果として、外国語の修得単位数は従来と変わらないものの、実質的な授業時間数は減少することになりました。外国語教育では履修時間が重要なファクターとなりますので、これは今回の全学教育改革の大きな問題点の一つと言えます。 ただし、そうした欠を補うために、外国語委員会ではさまざまな教育条件の改善に腐心してきました。第一に、クラスサイズを従来の平均60名から平均40名まで小さくして学生との関わりを密にし、教育効果を上げることに努めています。第二に、外国語教育に必須のネイティブ・スピーカー教員を全学枠定員の形て確保してきました。すでに中国語、朝鮮語、スペイン語の各語種に配置が決まっていますが、今後さらに増員を求めていく考えです。第三に、英語科目を「展開英語」と「実践英語」に区分し、前者では読解力を中心に言葉と文化の理解を目指して担当者に工夫を求め、後者では各方面から要求が高まっている実践的運用能力を養成すべく、オーラル・コミュニケーションに力点を置いた教育を行っています。特に平成15年度から開講される「実践英語U」は今回の改革の目玉とも言える科目ですので、少し詳しい説明をさせていただきます。 「実践英語U」は、学生によるCALLシステムを利用した自学自習を基本に、その成果を外部検定試験(TOEFLやTOElCなど)によって測定し、成績評価を行うという新しい科目てす。もちろん、学生からの学習相談には随時応じることのできる体制を整えておりますし、検定試験の綿密な受験指導も行います。また「実践英語U」が必修単位となっている学部の学生には検定料の一部を公費負担することになりましたが、これが国立大学で実現したのは初めてのことです。この試みが成功するか否かは、言うまでもなく学生の側の積極的取り組みにかかっています。しかし、最近では就職、留学、大学院進学などにおいて外部検定試験の得点を評価尺度とする企業や大学院が増加していますので、学生のインセンティブを高めて効果を上げることは十分に可能だと考えています。 このCALLシステムによる外国語教育を実施するための基盤整備として、川内北キャンパスに「マルチメディア教育研究棟」が建設されていることはご承知の通りです。そこには300ブースという国立大学では最大規模のCALL教室が設置される予定になっており、全国的にも注目を集めています。しかし、ハードウェアが整備されても、それを具体的に運用するソフトウェアの面が不備であれば、最先端のCALL教室も単なる機械置き場にすぎません。そのため外国語委員会では、全学的協カのもとに、施設の管理運用に携わる助手2名を配置してシステムの整備に遺漏なきを期し、さらに学習相談や教材開発にあたるインストラクター2名を本年秋には任用すべく準備を進めています。 もちろん、CALLシステムによる教育は万能ではありませんし、面接授業が不要になるわけでもありません。また「機械に人間の代わりはできない」という意見があることも事実です。しかし、限られた人員と時間的な制約の中で有効な外国語教育を行おうとすれば、面接授業とCALLシステムを相補的に組み合わせて最大限の効果を上げるほかはありません。実際、他大学においてもCALLシステムの導入は一つの流れとして定着しており、さまざまな工夫をこらして多くの成果を挙げています(詳しくは学習環境専門部会が作成した『国立大学CALL視察報告書』をご覧ください)。いずれにせよ、本学のCALL教育は新たな一歩を踏み出したばかりです。当面は試行錯誤を続けざるをえませんが、長期的な観点から見守っていただければ幸いです。 今後の方向としては、履修要件を超えて外国語を学びたい学生のために「上級外国語」の開設を予定しています。これは外国語教育を最初の2年間だけて終らせることなく、留学や進学などのニーズに応じて4年一貫教育を目指すための布石です。また、初修外国語の語種を特にアジア語を中心に増やして行くこともこれからの検討課題となっています。 外国語委員会では、「カリキュラム専門部会」と「学習環境専門部会」という二つの部会を設置し、さらに各語種ごとの「教科部会」と密接な連携をはかることによって、以上のようなさまざまな課題と取り組んでいます。ただ最大の問題点は、専任教員が各部局に所属しているため外国語委員会には人事権がなく、教員の配置や語種の選定について「自己決定権」をもっていないことです。これは委員会方式のもつやむをえない欠陥ですが、全学的な協力体制のもと問題を一つ一つ解決していくほかはありません。本学の構成員の皆様には、外国語教育が専門の担当者だけでなく、全学的な理解と協カに基づいて運営されていることをご認識いただき、今後ともさらなるご支援とご助力をお願い申し上げる次第です。 |
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