◇新入生を迎えて | ||
東北大学総長 阿部 博之 | ||
戦後50年、産官共に、欧米とくに米国で生み出された科学技術の商品化、改良に努力し、今日の繁栄をもたらしました。その反面、ただ乗り論に象徴されるように、科学技術の種をつくり、芽から育てることに熱心でありませんでした。このことは科学技術に限らず、学術のすべてにいえることです。いまわが国は、いわゆる先進国からも、アジアの近隣の国々からも尊敬されない国になりつつあります。大変残念なことです。 さて産学官と書かなかったことに触れましょう。学の中には、欧米の先導的学者と肩を並べる、あるいはそれ以上の創造的業績をのこした学者は少なくありません。とくに東北大学における密度は格段に濃いものであります。しかし残念ながら、わが国として評価の環境づくりを避けてきてしまいました。 このままで良いわけはありません。わが国も未来のために知的財産をつくっていかなければなりません。そのためには、第一に大学の役割を再確認し、整備していかなければなりません。少なくとも欧米の伝統大学、研究大学の役割を担っていく大学が必要であり、とくに研究大学としての実績をもつ東北大学の責任は大きいといえます。 近年受験の秀才で、就職後挫折する若者がふえています。その兆しはすでに大学教育において現れています。大学が高校までと異なる特徴の一つは、文系、理系を問わず、いまだ答が得られていない問題をといていく点にあります。解答のマニュアルは当然のことですが、整備されていません。また応用の科学においては、多くの場合、解答が複数存在します。産業界等で仕事が進まない受験秀才の諸君は、大学においてこのような問題にチャレンジすることを嫌ってきたように思います。 大学に入っても一足跳びに研究の第一線に立てるわけではありません。準備としてのいろいろな勉強が必要です。それぞれの学部の専門教育科目に加えて、全学教育科目も重要な部分をしめております。皆さんが将来専門家として、リーダーとして、活躍するために用意されている科目ですが、面白くないものもあるでしょう。注文や意見がありましたら、担当の先生にどしどし質問して下さい。かならずや後輩の諸君への良い影響になるでしょう。 これからの時代のリーダーには、専門性に加えて幅の広さが必要であることを改めて述べておきます。 |
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