◇東北大生への期待
東北大学総長  阿部博之
 東北大学入学おめでとうございます。

 皆さんが意識しているかどうかわかりませんが、いまわが国は大転換期に入っています。わが国だけではなく地球規模の動きでもあります。それはグローバリゼイションの加速化であります。

 科学技術には元来、国境はありません。政策的に規制していたものに対しても、国境の壁はどんどん低くなってきています。経済、金融の国境も弾力化の一途です。

 グローバル・スタンダード(地球標準)という言葉があります。アメリカン・スタンダード、あるいはアングロ・アメリカン・スタンダードではないかという意見があります。多分そうでしょう。その特色を三つ挙げれば、「多国籍化」「情報化」「仮想性」ではないでしょうか。わが国はモノづくりが得意であるとされていますが、その中で、グローバル・スタンダードの形成に協力している分野も少なくありません。しかし不得意な分野では、江戸末期の攘夷に似た反応がしばしばみられます。欧米においても、弱い分野では、保護貿易の動きはめずらしくありません。グローバル・スタンダードを分析し、批判することはもちろん必要ですが、より大切なことは、グローバル・スタンダードにどう対応していくかであります。人類にとってより優れたスタンダードがあれば、わが国から発進していくことであります。そしてこれらのための基礎体力を身につけることです。

 これまでの大学生は、官庁はもちろんのこと、わが国の企業に入り、いわば日本型システムの中で人生を送るのが一般的でありました。しかしこれからは、そうはいかないでしょう。企業の多国籍化が進みます。日本人が経営する企業においても、グローバリゼイションがどんどん進みます。従って、官庁、企業を問わず、国際通用性のある人材、専門化の役割が増大します。

 日本人は日本型システムにどっぷりつかり、それを享受し、その中で努力をしてきました。もちろん日本型システムに甘えてきた人達も少なくありませんでした。日本型システムが制度疲労しているといわれていますが、それは国際通用性、国際競争力に欠ける分野です。また日本人は長期戦略が不得手といわれますが、そうでしょうか。確かに第2次大戦後は、その傾向が強かったかもしれません。いずれにしても、これらの大問題に立ち向かっていかなければならないのです。それらの解決には高度な専門性が不可欠であることを述べておきます。

 変革は若者の特権です。しかしこれだけ複雑な大問題は、「知の創造」に裏付けされた学問なしにはできません。皆さんは新しい時代の選手として、いわば第一走者の一員として東北大学に入学したのであります。

 国際通用性という言葉から、英語などの外国語を勉強しなければならないと思う人は少なくないでしょう。もちろんそれ自体間違いではありません。しかしより本質的なことは、第一に、皆さんの競争相手は諸外国の大学生であるという認識であります。第二に、自立心であります。第三に、異文化との交流に積極的であってほしいことです。自立心について補足しますと、「天は自ら助くるものを助く」です。皆さんがよく知っている言葉ですが、実はこれからのわが国に最も必要なことです。

 東北大学はいろいろな教育プログラムを用意しており、それらを一通り習得すれば、それなりの価値を身につけることができますが、それでは受身です。大学が何を与えてくれるかを越えて、自ら何を獲得できるか、であります。

 東北大学には、国際級の先生方が多数おられます。遠慮なく積極的に質問して下さい。一日一日を大切にして、意義ある学生生活を送ることを希望します。
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