◇荒城の月と三太郎の小径 | ||
大学教育研究センター長 星宮 望 (大学院工学研究科電子工学専攻・教授) | ||
新入生諸君、入学おめでとうございます。また、昨年度入学の諸君、進級おめでとうございます。皆さん、表題の「荒城の月」と「三太郎の小径」をご存じですか?多分、ほとんどの諸君は「荒城の月」の名曲を知っていると思います。作詞者が土井晩翠(本名:土井林吉)で、作曲者が滝廉太郎であることを知っている人も多いでしょう。では、土井晩翠が現在の東北大学の前身の一部であった旧制第二高等学校の教授(1950年文化勲章を受賞)であったことは知っていますか?荒城の月の作詞にあたっては仙台の青葉城を念頭においたといわれています。是非、青葉城跡を訪れて気宇壮大な、いにしえの武将の心意気や、土井晩翠の繊細な詩情などを偲んでみて下さい。 では、「三太郎の小径」はどうでしょうか?これを知っている学生は少ないかもしれません。それでは「三太郎の日記」は読んだことがありますか?「三太郎の日記」は東北帝国大学が創設されてまもなくの大正11年に創設された法文学部の美学講座担当の教授であった阿部次郎先生の書かれた名著です。原稿は明治44年頃から大正3年頃にわたって書かれたもので、今となっては大昔の著書と言われるかもしれません。しかし、戦前・戦後をとわず永年にわたって大学生の必読書といわれてきていた名著です。人生を真剣に考えること、若い魂の叫びというようなことを正面から取り上げた本として極めて高い評価を受けておりました。小生ももちろん大学に入学してすぐに買って読み始めましたが、内容の高度なこともあって何度も挫折したことを思い出します。できれば若い学生諸君に読むことをお薦めいたします。しかし、残念ながら絶版になり、今では一般の書店では売っていないのが残念です。図書館で読んでください。この「三太郎の日記」を記念して川内キャンパスの図書館の東側の道路向かいに「三太郎の小径」が作られております。授業の合間などにここを散策して、大先輩の阿部次郎先生を偲んでみては如何でしょうか?阿部次郎先生のことについては、幸い、平成11年秋に、文学部の事業として「阿部次郎記念館」(青葉区米が袋3−4−29)[TEL:267-3284]が開館されましたので、ここを訪れることもおすすめします。ここには、「三太郎の日記」をはじめとして、各種の資料が展示されておりますので、是非、ここを利用して下さい。最近、東北大学出版会から刊行された「父 阿部次郎」によりますと、阿部次郎先生は、法文学部の文科系の初代教授を選考する際に重要な役割をにない、専門に局限しない全学的なひろい交わりを願って努力されたようです。そのため、多くの素晴らしい学者、研究者、教育者が集まった東北帝国大学の基礎が築かれたとも言えましょう。 現在の東北大学は理工系の学生定員が多いために、ともすると文系の特色があまり知られていない面があるかもしれませんが、ここに述べたことはほんの一端であって、多くの思想家、精神的な指導者・研究者などを輩出した大学であることを認識していただきたいと思います。 21世紀は、日本の財産である「頭脳」が国際的な競争の中心になる時代です。その時に、外国の例をまねするのでなく、自分らの判断で推進して行くためには、大学の1、2年の時に自己を確立することが益々重要になると思います。そのためには、若いこの時期に、真の教養とは何かを考え、自分の専門の知識だけでなく、広い視野で物事を判断できる素養を身につけていただきたく思います。 将来の諸君の大きな発展と成長をお祈りいたします。 最後に、土井晩翠先生の直筆の書(写真)を掲載いたします。これは、たまたま、小生の父(88歳で小生宅に同居中)が旧制第2高等学校の学生時代に土井晩翠先生から直接いただいた書を表装して、私の自宅の応接間にかけているものです。 |
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![]() (注:「天地有情」は1899年発表の土井晩翠の有名な詩集名) |
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